ネタバレあり感想
現実の出来事を扱った功罪
『君の名は。』では隕石の落下、『天気の子』では未曾有の異常気象という大きな災害が起きて、主人公たちは否応なしに巻き込まれてしまうストーリーが軸としてありました。今作でもその点は踏襲されているのですが、これまでの架空の出来事とは大きく異なり、実際にあった災害をベースにして物語が構成されています。
それは、2011年3月11日に発生した東日本大震災。作中で明言はされませんが、主人公たちが最後に目指す場所は震災の影響が大きかった岩手県あたりだと思われます。
作中でも地震が発生するたびにスマホがけたたましく鳴り響き、毎回身体が緊張するような不快な感覚を体験しました。当時、私自身は直接被害を受けずに済みましたが、それでも未だにあの見た映像やいつまでも続く余震の恐怖がトラウマになって心の中に焼き付いています。これ、実際に被害に遭われた方だったらとても辛い思いをするんじゃないかなと映画感を出た後の感動の余韻の片隅でどうしても考えてしまいました。
だけど監督もそれを理解した上で、あえてこのタイミングで上映したようで、入場者プレゼントでいただいた「新海誠本」にも書かれていました。あれから12年経ち、当時の記憶を持たない世代も育ってきている今だからこそ、風化してしまわないようアニメの力を借りてもう一度思い返す必要があったのだと思います。
「扉を締める」難しさ
草太さんは「閉じ師」という役割を担っています。これは各地に出現する、現世(うつしよ:すずめさんたちがいる世界)と常世(とこよ:あの世、つまり死者の世界)を結ぶ扉「後ろ戸」を締めるお仕事です。
扉が出現する理由は、今は誰もいないのにたくさんの人の思い出が残ったままになっているからで、そのままにしておくと「後ろ戸」が開いて「ミミズ」という災厄の原因がやって来てしまいます(この辺の設定はよくわかりません)。そんな思い出を浄化して元々の地にお返しするのが「閉じ師」なのです。
作中では誰も住まなくなった集落や放棄された遊園地などで扉が開き、すずめさんと草太さんが必死になって閉じていました。私が住んでいる新潟県上越市でも人口減少は大きな問題で、郊外だけでなく商店街でさえ人の気配の途絶えた場所があります。廃墟みたいな場所が増えれば、見た目も怖いし治安上も良くないし「後ろ戸」が開いたみたいに実際にも悪いことが起こりそうです。
現実には「閉じ師」さんがいないので、これからそんな所が増えていくのはとても怖いなと思いました。あ、もしかしたら「閉じ師」さんって職業が流行るのかもしれない!
久しぶりに外の世界に触れた!
ここ数年で、新型コロナウィルス感染症の拡大により旅行すらも自由にできずすっかり世界が小さくなった気がします。出かけるのに特に制限がなくなったとはいえ、どうしても精神的に抵抗を感じます。
九州も四国も神戸もまだ行ったことがないし、行ってみたい場所でした。映画の中でその景色を見て、それぞれの場所での出来事はほんの少しだったけど、私もその場所に行って久しぶりに遠くの世界に触れられた気がして、とても嬉しくなりました。旅に出たい!という気持ちを映画が満たしてくれるなんて思ってませんでした。ロードムービーってあんまり興味なかったけどこんな楽しみ方もできるんだなって教えてもらえました。でも今度はリアルで旅行行きたい!
おわりに
最近は映画館に足を運ぶ機会が少なくなっていましたが、もっと映画観に行きたいな〜と思えるようになりました。上越には他に高田世界館もあるし映画文化がどんどん広がって欲しいです。
最後にお知らせです。誰かと語りたくなる映画なのに周囲には観た人が全然いなかったので、語り合えるイベントを開催することにしました!同じような境遇の方、映画のこと話したい、映画好きとつながりたい、という人はぜひご参加ください!
©『すずめの戸締まり』製作委員会